4〜6月に残業代が多く支給されたからといって、必ず標準報酬月額が上がるわけではありません。
定時決定には、通常の算定方法とは異なる取り扱いが認められるケースがあります。2026年の制度で押さえておきたいのは、次の3つです。
① 算定基礎届の提出対象外になる人
日本年金機構によると、原則として7月1日現在の被保険者が算定基礎届の対象ですが、次のケースでは通常の提出対象から除外されます。
- 6月1日以降に社会保険の資格を取得した人
- 6月30日以前に退職した人
- 7月に随時改定され、月額変更届を提出する人
- 8月または9月に随時改定が予定されている旨を会社が申し出た人
ただし、提出対象外だからといって、社会保険料の算定そのものがなくなるわけではありません。それぞれの状況に応じた決定方法が適用されます。
② 年間平均による定時決定が認められる場合
特に知っておきたいのが「年間平均による定時決定」です。
通常は4〜6月の3カ月間の給与平均で標準報酬月額を決めますが、業務の性質上、特定の時期に残業や繁忙期の手当が集中する会社もあります。
例えば、次のような働き方です。
- 毎年4〜6月に決算業務が集中する。
- 特定の季節に受注が増える業種で働いている。
- 毎年決まった時期に繁忙期の手当や残業代が増える。
こうしたケースでは、4〜6月の平均額を使うと年間の実態と大きくかけ離れることがあります。
そこで、一定の要件を満たす場合には、前年7月から当年6月までの年間報酬平均を使った定時決定が認められています。
主な条件は次のとおりです。
1. 4〜6月の報酬平均から算出した標準報酬月額と、前年7月〜当年6月の年間平均から算出した標準報酬月額に2等級以上の差がある。
2. その差が、業務の性質上、例年発生することが見込まれる。
3. 必要な申立書類を提出し、被保険者本人の同意を得る。
日本年金機構は、年間平均による算定のための申立書と、例年の状況や等級の比較、被保険者の同意などを記載する書類を用意しています。
注意したいのは、年間平均の計算を誰でも自由に選べるわけではないことです。
単に「今年の4〜6月だけ残業が多かった」「保険料を安くしたい」という理由だけでは、適用条件を満たしません。毎年繰り返される業務上の季節変動であることが重要です。
③ 4〜6月の支払基礎日数が足りない場合
4〜6月の3カ月間すべてで支払基礎日数が17日未満の場合、通常は従前の標準報酬月額を引き続き使用します。
例えば、病気による長期欠勤などで給与の支給が少ない場合でも、単純に3カ月の平均を使うとは限りません。
また、4〜6月に3月以前の給与の遅配分や、過去にさかのぼった昇給差額が支払われた場合も、通常の算定ではなく、保険者決定による調整が行われることがあります。
【随時改定と残業代の違い】4〜6月以外も保険料が変わる?

残業代と社会保険料の関係を理解するうえで、もう一つ知っておきたいのが「随時改定」です。
定時決定は毎年決まった時期に行われますが、随時改定は給与に大きな変動が生じた場合に、定時決定を待たずに標準報酬月額を変更する仕組みです。
残業代が増えただけでは随時改定にならない
日本年金機構の説明では、随時改定には、昇給・降給などによる固定的賃金の変動が必要です。
主な条件は次の3つです。
- 基本給や役職手当などの固定的賃金に変動がある。
- 変動後の継続した3カ月間の報酬平均から算出した標準報酬月額が、従前と2等級以上異なる。
- その3カ月間の支払基礎日数が原則として各月17日以上ある(特定適用事業所等の短時間労働者は11日以上)。
条件を満たした場合、原則として固定的賃金が変動した月から4カ月目に標準報酬月額が改定されます。
例えば、基本給が30万円から32万円に昇給し、その後3カ月間の報酬平均が従前より2等級以上上がった場合、随時改定の対象になる可能性があります。
一方、基本給は変わらず、繁忙期の残業代だけが増えた場合は、原則として随時改定の対象にはなりません。
定時決定と随時改定の違い
| 比較項目 | 定時決定 | 随時改定 |
|---|---|---|
| 実施時期 | 毎年1回 | 条件を満たしたとき |
| 主な対象 | 4〜6月の報酬 | 固定的賃金の変動後3カ月 |
| 残業代の増加 | 算定に反映される | 残業代だけの増加では原則対象外 |
| 等級の変動条件 | 報酬平均を等級表に当てはめる | 原則2等級以上の差 |
| 適用時期 | 9月から | 原則として変動月の4カ月目から |
この違いを理解すると、「4〜6月だけ残業しなければ、その後は社会保険料が変わらない」という考え方が正確ではないことも分かります。
4〜6月以外でも、固定的賃金の変動などによって標準報酬月額が改定される可能性があるからです。
【プロの結論】4〜6月は残業を減らすべき?損をしない判断基準
4〜6月に残業をしない方がいいという話には、社会保険料を抑えるという合理的な背景があります。
ただし、残業代を受け取ること自体が損になるわけではありません。
大切なのは、目先の手取りだけでなく、年間の保険料負担や将来の給付まで含めて判断することです。
残業を調整するメリットが大きい人
次のような人は、4〜6月の勤務状況を確認しておく価値があります。
- 普段から標準報酬月額の等級境界に近い給与を受け取っている人
- 4〜6月に毎年まとまった残業が発生する人
- 繁忙期の残業が一時的で、7月以降は通常の勤務に戻る人
- 通勤手当や各種手当を含めると、等級が上がる可能性がある人
特に、わずかな報酬増加で標準報酬月額の等級が上がる可能性がある人は、事前に給与明細と等級表を確認しておくとよいでしょう。
残業を無理に減らす必要がない人
一方、次のような人は、社会保険料だけを理由に残業を断る必要性は高くありません。
- 4〜6月の報酬が等級の境界から十分離れている人
- 残業代が増えても標準報酬月額の等級が変わらない人
- 年間を通じて安定して残業している人
- 将来の厚生年金や健康保険の給付も重視する人
標準報酬月額が高くなることは、保険料負担が増える一方で、将来の厚生年金の計算や、傷病手当金・出産手当金などの給付にも関係します。
協会けんぽでは、傷病手当金の支給額を、支給開始日前12カ月間の標準報酬月額の平均を基に計算しています。出産手当金も同様に標準報酬月額が計算の基礎となります。
実際に確認したい3つのポイント
残業を減らすかどうか迷った場合は、次の順番で確認するのがおすすめです。
1. 給与の支払日を確認する。 4〜6月に実際に支給される残業代を把握する。
2. 標準報酬月額の等級を確認する。 基本給、残業代、通勤手当などを含めて平均額を試算する。
3. 保険料の増加額と残業代を比較する。 9月から翌年8月までの影響を考慮する。
特に重要なのは、残業代が増えることと、標準報酬月額の等級が上がることは別の話だという点です。
残業代が数万円増えても等級が変わらなければ、定時決定による保険料の増加は発生しません。反対に、少しの報酬増加でも等級の境界を超えれば、翌年8月まで保険料負担が変わる可能性があります。
残業時間を減らすことよりも、自分の給与がどの等級に該当するかを把握することが、合理的な判断につながります。
【残業しない方がいい月】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:4月・5月・6月は絶対に残業しない方がいいですか?
A1:絶対に残業を避ける必要はありません。4〜6月に支給された給与が定時決定に影響するため、残業代が多いと標準報酬月額が上がる可能性があります。ただし、等級が変わらなければ保険料も変わらないため、給与額を確認して判断することが大切です。
Q2:6月に残業した場合、7月に残業代が支給されれば対象外ですか?
A2:原則として対象外です。定時決定は実際に4月・5月・6月に支給された報酬を基に算定するため、6月に働いた残業分でも7月に支給された場合は通常の算定対象に入りません。
Q3:4〜6月に残業代が増えた場合、9月から必ず社会保険料が上がりますか?
A3:必ず上がるわけではありません。3カ月の報酬平均を標準報酬月額の等級表に当てはめ、従来の等級と比較する必要があります。等級が変わらなければ、定時決定による保険料の変更はありません。また、年間平均による定時決定などの例外もあります。
まとめ:2026年は4〜6月の給与と9月以降の保険料を確認しよう
残業しない方がいい月として知られる4月・5月・6月には、社会保険料を決める定時決定という制度が関係しています。
2026年も、日本年金機構の制度に基づき、4〜6月に支給された報酬を基に標準報酬月額が決定され、原則として9月から翌年8月まで適用されます。
覚えておきたい要点は次のとおりです。
- 4〜6月に支給された残業代は算定対象になる。
- 通勤手当や各種手当も原則として報酬に含まれる。
- 支払基礎日数17日未満の月には特別な取り扱いがある。
- 年間平均による定時決定が認められる場合もある。
- 残業代だけの増減では、原則として随時改定は行われない。
- 標準報酬月額の変更は、保険料だけでなく将来の年金や健康保険の給付にも関係する。
大切なのは、4〜6月に残業を一切しないことではありません。給与の支給タイミング、標準報酬月額の等級、翌年8月までの保険料負担を総合的に確認することです。
残業代を減らすことだけを目的に働き方を変えるのではなく、収入と社会保険料、将来の保障のバランスを見ながら、自分にとって納得できる働き方を選ぶことが重要です。