血液型と認知症の関係を理解するうえで、もう1つ知っておきたいのがAPOEε4という遺伝子です。
ABO遺伝子とAPOE遺伝子は、それぞれ異なる働きを持っています。2024年のUK Biobank研究で両者が同時に分析されたのは、遺伝的な要因が重なった場合に、認知症リスクとの関連が変わる可能性があるためです。
APOEε4はアルツハイマー病の重要な遺伝的危険因子
APOEは、アポリポタンパク質Eを作るための遺伝子です。このタンパク質は、脳や体内で脂質を運搬する働きに関係しています。
APOEには主にε2、ε3、ε4という3種類の対立遺伝子があります。そのうち、APOEε4はアルツハイマー型認知症の発症リスクを高めることが知られている遺伝的要因です。
人は両親から1つずつAPOE遺伝子を受け継ぐため、ε4を1つ持つ人と2つ持つ人がいます。一般的に、2つ持つ場合は1つの場合よりアルツハイマー病のリスクが高くなります。
ただし、APOEε4を持っていても必ずアルツハイマー病になるわけではありません。反対に、APOEε4を持たない人でも発症することがあります。
米国国立老化研究所(NIA)も、APOEε4をリスクを高める遺伝的要因として説明しており、遺伝子を持っていることと病気を発症することは別だとしています。
ABO遺伝子と血液凝固の関係
ABO遺伝子が認知症研究で注目される背景には、血液凝固や血管の働きとの関係があります。
血液型を決めるABO遺伝子は、血液中の凝固に関係する第VIII因子やフォン・ヴィレブランド因子(vWF)などとも関連しています。これらは血栓形成や血管疾患との関係が研究されている物質です。
脳の血管に障害が起きれば、脳組織への血流が妨げられ、認知機能に影響する可能性があります。脳梗塞などの血管障害が原因となる血管性認知症では、こうした血管の健康が特に重要です。
2024年の研究でも、BB遺伝子型と認知症との関連の一部について、心血管疾患が約31.4%を媒介していたとする分析結果が示されました。
ただし、血液型による凝固因子の違いが、そのまま認知症を引き起こすという因果関係が確立されたわけではありません。研究者も、具体的な生物学的メカニズムを明らかにするには、さらなる検証が必要だとしています。
2024年の研究から読み取れる本当の意味
今回の研究で重要なのは、血液型だけで認知症リスクが決まるのではなく、複数の遺伝的・身体的要因が関係している可能性が示されたことです。
特に、ABO遺伝子型とAPOEε4、性別の相互作用は、今後の認知症研究における検討課題です。
一方、現段階では、一般の健康診断で血液型やAPOEε4を調べれば、将来の認知症を正確に予測できるという段階にはありません。米国国立老化研究所も、無症状の人に対するAPOE遺伝子検査を一般的な発症予測検査として推奨していません。
遺伝情報を必要以上に恐れたり、血液型だけで将来を判断したりする必要はありません。
【2026年最新】認知症になりやすい人の特徴と科学的な予防方法

血液型の違いよりも、認知症予防で優先して考えたいのが、年齢、生活習慣、血管の健康、聴力や視力、社会的なつながりなどです。
世界保健機関(WHO)は2026年7月15日、認知機能低下と認知症のリスクを減らすための新しいガイドラインを発表しました。2019年の初版から研究知見を更新し、健康的な生活習慣、病気の管理、環境要因への対策を重視しています。
また、2024年の医学誌「The Lancet」の認知症予防委員会報告では、14の修正可能な危険因子に対処することで、世界の認知症の最大45%に相当するリスクを予防または発症延期できる可能性が示されました。
これは集団全体についての推計であり、個人が生活習慣を変えれば必ず認知症を防げるという意味ではありません。しかし、遺伝的な要因だけでなく、日々の健康管理にも大きな意味があることを示しています。
認知症の発症リスクに関係する主な特徴
国立長寿医療研究センターやWHOなどが取り上げている主な危険因子は次のとおりです。
- 加齢: 年齢が高くなるほど認知症の発症リスクは上昇する。
- 高血圧: 血管への負担が大きくなり、脳血管障害のリスクにつながる。
- 糖尿病: 血糖値の管理不良が血管や脳の健康に影響する。
- 脂質異常症: LDLコレステロールの高値などが血管の健康に関係する。
- 肥満・運動不足: 代謝や循環器系の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。
- 喫煙・過度の飲酒: 脳や血管に負担をかける。
- 難聴: 音声情報の処理や社会的交流に影響し、認知症リスクと関連する。
- 社会的孤立: 人との交流や社会参加が少ない状態が続く。
- うつ: 精神的な健康と認知機能の両面に関係する。
- 視力低下: 治療されていない視覚障害も修正可能な危険因子として挙げられている。
- 頭部外傷: 脳への繰り返しの衝撃などが将来のリスクに関係する。
- 大気汚染: 長期的な環境曝露も認知症リスクとの関連が指摘されている。
これらは認知症になる人の決定的な特徴ではなく、発症リスクに関係する要素です。複数の危険因子がある人でも必ず発症するわけではありません。
認知症予防のために実践したい5つの生活習慣
1.無理のない運動を継続する
ウォーキングや体操など、身体を動かす習慣を作ることが大切です。体力や持病に合わせて、継続できる運動を選びましょう。
2.栄養バランスのよい食事を取る
魚、野菜、豆類、果物などを組み合わせ、偏りの少ない食生活を意識します。過剰な塩分や糖分にも注意しましょう。
3.人との交流を続ける
家族や友人との会話、地域活動、趣味の集まりなど、社会とのつながりを保つことが大切です。
4.血圧・血糖値・コレステロールを管理する
健康診断を受け、必要に応じて医療機関で治療を続けます。高血圧や糖尿病を放置しないことが重要です。
5.聴力・視力の低下を放置しない
聞こえにくさや見えにくさを感じたら、耳鼻咽喉科や眼科などで相談します。必要に応じて補聴器や眼鏡などを活用しましょう。
国立長寿医療研究センターも、運動、バランスのよい食事、社会活動への参加、人との交流や外出を組み合わせることを推奨しています。
2026年のWHOガイドラインでは、認知的な活動や社会参加に加え、禁煙、飲酒量の抑制、高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理、難聴への対応、大気汚染への曝露低減なども取り上げられています。
また、ビタミンB・Eやオメガ3脂肪酸などのサプリメントを、欠乏症などの医学的な理由がないのに認知症予防目的で摂取することについては、十分な有効性を示す証拠がないとして、WHOは推奨していません。
血液型を気にするより、こうした対策を日常生活に取り入れるほうが、現時点で医学的な根拠に基づいた行動です。
【認知症になりやすい血液型】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:認知症になりやすい血液型はB型ですか?
A1:B型全体が認知症になりやすいと証明されたわけではありません。2024年のUK Biobank研究では、B型に関連するBB遺伝子型と認知症リスクの上昇に統計的な関連が報告されました。ただし、B型にはBBとBOがあり、BOでは同じ結果が確認されていません。
Q2:AB型はアルツハイマー病になりやすいのでしょうか?
A2:AB型と認知機能障害の関連を示した2014年のREGARDS研究があります。また、2024年の研究では男性のAB遺伝子型とアルツハイマー型認知症との関連も報告されました。しかし、スカンジナビアの約160万人の調査では血液型と認知症の明確な関連は認められておらず、AB型を確立した危険因子とは判断できません。
Q3:O型なら認知症になりにくいですか?
A3:O型だから認知症になりにくいという確かな医学的根拠はありません。研究でO型のOO遺伝子型が比較基準に使われたことと、O型が認知症予防に有利であることは別の話です。
Q4:APOEε4を持っていると必ず認知症になりますか?
A4:必ず発症するわけではありません。APOEε4はアルツハイマー病の重要な遺伝的危険因子ですが、保有していても発症しない人がいます。遺伝子検査だけで将来の発症を確定することもできません。
Q5:血液型を調べれば将来の認知症リスクが分かりますか?
A5:通常の血液型検査だけでは分かりません。血液型と遺伝子型には違いがあり、認知症の発症には加齢、生活習慣、血管の健康、複数の遺伝的要因などが関係します。一般的な血液型検査は認知症の予測検査ではありません。
Q6:認知症予防は何歳から始めればよいですか?
A6:何歳からでも生活習慣を見直す価値があります。WHOは、認知症リスクが生涯を通じて蓄積することを踏まえ、若い時期からの健康管理を重視しています。運動、食事、禁煙、血圧管理、聴力・視力のケアなどを早い段階から意識しましょう。
まとめ:血液型で認知症を判断せず、予防できる危険因子に目を向けよう
「認知症になりやすい血液型」という疑問に対する答えは、2026年現在、特定の血液型が認知症になりやすいと確定した医学的根拠はない、というものです。
2024年のUK Biobank研究では、約48万7,000人のデータから、BB遺伝子型と認知症リスクの関連が報告されました。男性やAPOEε4保有状況によっても結果が異なり、遺伝的要因を組み合わせて考える必要性が示されています。
一方、2015年のスカンジナビア研究では約160万人を対象に分析した結果、ABO血液型と認知症発症との明確な関連は認められませんでした。2014年のREGARDS研究で報告されたAB型と認知機能障害の関連も、認知症の発症と同一視することはできません。
これらの研究から読み取れるのは、血液型だけで認知症のリスクを判断することには限界があるということです。
日々の生活で優先したいのは、血圧や血糖値の管理、適度な運動、栄養バランスのよい食事、禁煙、聴力・視力のケア、社会的な交流です。
血液型を変えることはできませんが、生活習慣や健康管理は見直せます。自分や家族の血液型を必要以上に心配するのではなく、今からできる脳と身体の健康づくりに目を向けることが、認知症予防への現実的な第一歩です。
主な参考研究・公的資料
- Li Mほか「Association between ABO genotypes and risk of dementia and neuroimaging markers: roles of sex and APOE status」(Frontiers in Neurology、2024年)
- Vasan SKほか「ABO Blood Group and Dementia Risk – A Scandinavian Record-Linkage Study」(PLOS ONE、2015年)
- Alexander KSほか「ABO blood type, factor VIII, and incident cognitive impairment in the REGARDS cohort」(Neurology、2014年)
- 世界保健機関(WHO)「Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines, second edition」(2026年)
- 国立長寿医療研究センター「認知症の予防」